”床屋のチャーリー” の演説

映画史に残る最高の演説です。

映画「チャップリンの独裁者 (原題:The Great Dictator)」のラストシーンで監督・製作・脚本・主演を務めた《喜劇王》ことチャールズ・チャップリンが一世一代の名演説を披露しています。

演説内容のテキストと動画はページ下部にあります。

1940年(昭和15年)10月15日アメリカにて初公開。チャップリンの映画の中では最高の興行収入を記録しています。当時、ナチス・ドイツと友好関係にあった日本では公開されませんでした。
日本初公開は終戦後となり、サンフランシスコ講和条約締結から8年後の1960年のことでした。

特筆すべきは、この映画が製作された時代背景とその後のチャールズ・チャップリン自身の映画人生です。

時代背景

1939年から1940年はナチスドイツ軍が隣国ポーランドへ侵攻、その後第二次世界大戦へ突入した年代です。ドイツ国民に担がれたヒトラーが暴走を始め、今まさに世界を巻き込んだ侵略戦争が始まろうとしていた時代です。
第二次世界大戦への参戦前である当時のアメリカの風潮は、国内にドイツ系市民を中核とする親ナチ派が存在しており、ファシズム色を濃くしていったヒトラーに対してさえ、「共産主義の防波堤」と称賛する者もいたほどでした。
ドイツやその意向を受けたハリウッドの資本家が様々な圧力を加えて製作を妨害してきたそうです。(脅迫状も届いたそうです。)そんな時代のなかでヒトラーに似せた扮装、話し方で独裁者ヒンケルに成りすました主人公チャーリーを演じてこの演説シーンを撮ったのです。

しかもシナリオ完成時、喜劇寄りであったラストシーンを『独裁者に対する怒りを表現できない。』として演説シーンに書き直して撮ったのです。

演説中盤で呼びかけられる “ 私の声が届いている人達に言おう。「絶望してはいけない」と。” という言葉は当時迫害されていた人々へ向けられたもので、映像を見ていて感動しました。

また、演説序盤では、“ できれば皆を助けたいのだ。ユダヤ人にしろ、キリスト教徒にしろ、黒人にしろ、白人にしろ、皆を。” と語りかけています。1940年当時、アメリカ国内では人種隔離政策が採られていて、人種差別が普通であった時代にこの言葉を発する事には、大変な勇気が必要であったであろうと思います。
アメリカにおいて法律上、人種差別が撤廃されるためには1964年に公民権法が制定されるまで待たねばなりませんでした。

当時から現在までを振り返ってみても、社会情勢を鑑み真正面から異を唱え、この様な事を成した映画人はチャールズ・チャップリン以外存在しません。

(比較として、あえて挙げるならば、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件、アフガニスタン戦争、イラク戦争後、2004年6月に公開されたマイケル・ムーア監督による映画があります。『華氏911』はドキュメンタリーという事もあり公開時期が戦争後になっていますし、911テロ以降イラク戦争突入までのアメリカの世論情勢やマスコミの姿勢などを思い返すと『独裁者』のようなタイミングでの作品製作は不可能だったでしょう。『独裁者』は国外で起こっていた暴挙に対して、『華氏911』は国内で起こっていた暴挙に対して製作されたという事も勘案する必要がありそうです。

その後の映画人生

1936年
『モダン・タイムス』公開前後から左右両派から批判が強まる。

1939年
『独裁者』撮影開始。
チャップリンの元に製作中止を求める勢力から圧力がかかりだす。
さらに非米活動調査委員会(通称:赤狩り)が調査を始める。

1940年
『独裁者』公開。
1941年
反ファシストを宣言していたルーズヴェルト大統領からホワイトハウスに招待される。
1942年
『殺人狂時代』制作開始。

1945年
第二次世界大戦終結。非米活動調査委員会より召喚される。

1947年
『殺人狂時代』公開。非米活動委員会がチャップリン国外追放について公聴会を開催。
『殺人狂時代』上映拒否と妨害が多発。
ジョン・ランキン下院議員がチャップリンの国外追放を要求。
非米活動調査委員会から召喚状が届く。
カトリック系の在郷軍人会が司法省と国務省にチャップリンの活動調査と国外追放の実行を迫る。

1948年
フランス映画批評家協会から、ノーベル平和賞の候補に推薦される。

1949年
非米活動委員会の召喚を拒否する。

1951年
『ライムライト』撮影開始。

1952年
『ライムライト』公開。プレミア上映会のためロンドンに向かう船旅の途中、
トルーマン政権の法務長官から事実上の国外追放命令を受ける。
グリーンカードの居住者(チャールズ・チャップリンは英国籍)が米国を1年以上
離れるときは、再入国許可証を取らなくてはいけないのだが、政治思想の偏りを理由に法務長官から再入国の許可が下りなかった。
ロンドンで熱狂的歓迎を受けた後、エリザベス女王夫妻に謁見。
その後、スイスに移住。

1953年
アメリカの劇場で『ライムライト』の上映中止が相次ぐ。
『ライムライト』がアメリカの外国語報道批評家から最優秀作品に選定される。

1954年
世界平和評議会から平和国際賞が贈られる。
1957年
『ニューヨークの王様』公開。パリのプレミア上映会からアメリカの報道陣を締め出す。

1958年
ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームから名前(歩道の星型レリーフ)が抹消される。

1962年
オックスフォード大学協議会より名誉文学博士号が贈られる。
ダラム大学より名誉博士号が贈られる。

1965年
オランダのNPO、エラスムス財団からエラスムス賞を受賞。
1966年
『伯爵夫人』公開。

1971年
フランス政府によりレジオンドヌール勲章を受ける。
パリ市議会からは名誉市民の称号を与えられる。

1972年
ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームの名前(歩道の星型レリーフ)の復活が、
ロサンゼルス市議会により可決される。
アカデミー賞授賞式出席のため、国外追放から20年を経て再びアメリカの地を踏む。
第44回アカデミー賞で2度目の特別名誉賞を受賞。
授賞式に彼が現れると嵐のようなスタンディングオベーションが沸き起こった。
涙ながらのスピーチの後、ゲスト全員により彼自身が作曲した『モダン・タイムス』の主題歌「スマイル」が歌われた。

1975年
それまでの活動が評価されエリザベス2世よりナイトの称号を与えられる。
1977年
12月25日スイスの村コルズィエ=スュール=ヴェヴェイの自宅で永眠。享年88歳。

映画「チャップリンの独裁者 (原題:The Great Dictator)」 ラストシーンテキスト

動画は最下部に表示しています。
英文、和訳併記(動画中の字幕と和訳には若干表現に違いがあります。)
魔法の言葉×自然の神秘 自然のしずく×ことばの大海 leaf and letters : one times one)より引用

I’m sorry, but I don’t want to be an emperor. That’s not my business. I don’t want to rule or conquer anyone. I should like to help everyone if possible – Jew, Gentile – black man – white.

申し訳ないが、私は皇帝などなりたくない。それは私のやりたいことではない。誰に対しても支配や征服などしたくない。ただ、できれば皆を助けたいのだ。ユダヤ人にしろ、キリスト教徒にしろ、黒人にしろ、白人にしろ、皆を。

 

We all want to help one another. Human beings are like that. We want to live by each other’s happiness – not by each other’s misery. We don’t want to hate and despise one another. In this world there’s room for everyone and the good earth is rich and can provide for everyone.

私たちは皆、お互い助けたいと思っている。人間とはそういうものだ。他人の不幸ではなく、お互いの幸福によって生きたい。私たちはお互い憎みあったり、軽蔑したりなんかしたくない。この世界には一人一人場所がある。大地は豊かで、皆に恵みを与えてくれるものだ。

 

The way of life can be free and beautiful, but we have lost the way. Greed has poisoned men’s souls – has barricaded the world with hate – has goose-stepped us into misery and bloodshed. We have developed speed, but we have shut ourselves in.

人は美しく自由に生きられるはずなのに、私たちは道を失ってしまった。貪欲が人の魂を毒し、憎しみをこめて世界をバリケードで封鎖してしまったのだ。貪欲が私たちを悲劇と殺戮へと軍隊歩調で追いやったのだ。私たち人間はスピードを開発してきたが、自分自身を閉じ込める結果となってしまった。

 

Machinery that gives abundance has left us in want. Our knowledge has made us cynical; our cleverness, hard and unkind. We think too much and feel too little. More than machinery we need humanity. More than cleverness, we need kindness and gentleness. Without these qualities, life will be violent and all will be lost.

富を生み出すはずの機械が、私たちをどんどん貧乏にしてきた。知識は私たちを皮肉屋にした。知恵は私たちを非情で冷酷にした。私たちは考えてばかりで、感じることが出来なくなってしまった。機械が増えれば増えるほど、私たちには人類愛がより必要なのだ。知識が増えれば増えるほど、優しさや思いやりが必要なのだ。そうでなければ、人生は暴力で満ち、すべてを失ってしまう。

 

The aeroplane and the radio have brought us closer together. The very nature of these inventions cries out for the goodness in man – cries for universal brotherhood – for the unity of us all. Even now my voice is reaching millions throughout the world – millions of despairing men, women, and little children – victims of a system that makes men torture and imprison innocent people.

飛行機やラジオのおかげで、私たちはお互いの距離を縮めることができるようになった。こういった発明品の本質は、人間の良心や、国境を越えた兄弟愛や、私たちが団結することを強く訴えかけることにある。今でさえも、私の声は世界中の何百万人もの人々のもとに届いている。絶望している男女や子供たちのもとに。罪のない人たちを拷問し投獄する組織の犠牲者のもとに。

 

To those who can hear me, I say: ‘Do not despair.‘ The misery that is now upon us is but the passing of greed – the bitterness of men who fear the way of human progress. The hate of men will pass, and dictators die, and the power they took from the people will return to the people. And so long as men die, liberty will never perish.

いま、私の声が届いている人達に言おう。「絶望してはいけない」と。いま私たちの上に覆いかぶさっている不幸というのは、貪欲がただ通過しているだけにすぎない。人間の進歩を恐れている人たちの敵意にすぎないのだ。憎しみは消え去り、独裁者たちは死に絶えるだろう。民衆から奪いとった権力は、また民衆のもとに戻るだろう。人間は永遠に生きることはできないのだから、自由は決して滅びることはないのだ。

 

Soldiers! Don’t give yourselves to brutes – men who despise you and enslave you – who regiment your lives – tell you what to do – what to think and what to feel! Who drill you – diet you – treat you like cattle, use you as cannon fodder.

兵士たちよ!獣に身をまかせてはいけない!奴らは、君たちを軽蔑し、奴隷にし、生活を管理する。君たちが何をすべきか口を出してくる。考え方や感情にまで指図する!思想を叩きこみ、決められた食事を与え、家畜のように君たちを扱い、砲弾の餌食として使うだけだ。

 

Don’t give yourselves to these unnatural men – machine men with machine minds and machine hearts! You are not machines! You are not cattle! You are men! You have the love of humanity in your hearts. You don’t hate, only the unloved hate – the unloved and the unnatural!

こんな自然に反する人間たちに身をまかせてはいけない!こんな機械の頭と機械の心を持った機械人間に!君たちは機械じゃない!君たちは家畜じゃない!君たちは人間なのだ!君たちは心に人類愛を持った人間だ。憎んではいけない。愛を知らない者だけが憎むのだ。

 

Soldiers! Don’t fight for slavery! Fight for liberty! In the seventeenth chapter of St Luke, it is written the kingdom of God is within man not one man nor a group of men, but in all men! In you! You, the people, have the power – the power to create machines. The power to create happiness!

兵士よ!奴隷になるために闘うな!自由のために闘え!『ルカによる福音書』の17章に、「神の王国はあなたがたの中にある」と書かれている。神の王国は一人の人間や特定の人たちの中にあるのではない。一人一人、君たちのなかにあるのだ。君たち民衆は力を持っているのだ。機械を作り、幸せを生み出す力が!

 

You, the people, have the power to make this life free and beautiful – to make this life a wonderful adventure. Then in the name of democracy – let us use that power – let us all unite. Let us fight for a new world – a decent world that will give men a chance to work – that will give youth a future and old age a security.

君たちには力がある。人生を自由で美しくする力が!人生を素晴らしい冒険にるする力が!だから、民主主義の名のもとに、この力を使おうではないか!みんなで団結しよう!新しい世界のために闘おう!皆に雇用の機会を与えよう。若者に未来を与え、老人に保障を与えよう。そんなまともな世界のために闘おう!

 

By the promise of these things, brutes have risen to power. But they lie! They do not fulfil that promise. They never will! Dictators free themselves but they enslave the people. Now let us fight to fulfil that promise!

獣たちもこういった公約をかかげて権力を手にしたのだ。だが、嘘だった。奴らは公約を守らなかった。これからも実現させることはない!独裁者たちは自分だけを自由にし、民衆を奴隷にしたのだ。さあ、この約束を実現させるために闘おうではないか!

 

Let us fight to free the world – to do away with national barriers – to do away with greed, with hate and intolerance. Let us fight for a world of reason – a world where science and progress will lead to all men’s happiness. Soldiers, in the name of democracy, let us unite!

闘おう、世界を解放するために。国境を取り除くために。貪欲と憎しみと不寛容をなくすために。闘おう、分別ある世界のために。科学と進歩がすべての人たちの幸福へと導くような世界のために。兵士たちよ!民主主義の名のもとに、団結しよう!

 

Hannah, can you hear me? Wherever you are, look up Hannah. The clouds are lifting! The sun is breaking through! We are coming out of the darkness into the light. We are coming into a new world – a kindlier world, where men will rise above their hate, their greed and their brutality. Look up, Hannah!

ハンナ、聴こえるかい?君がどこへいようと、ほら見上げてごらん、ハンナ。雲が消えて、太陽の光が差し込んできただろう?僕たちは暗闇から抜け出て、光のなかへいくんだ。新しい世界に。心やさしい世界に。憎しみも強欲も残忍もないそんな世界に。だから見上げてごらん、ハンナ。

 

The soul of man has been given wings and at last he is beginning to fly. He is flying into the rainbow – into the light of hope, into the future, the glorious future that belongs to you, to me, and to all of us. Look up, Hannah… look up!

人間の魂には翼が与えられていたんだ。そしてついに人間は飛び始めたんだよ。虹に向かって。希望のに向かって。未来に向かって。輝かしい未来に向かって。君や僕、みんながそこで暮らすんだ。だから見上げてごらん、ハンナ、見上げてごらんよ。

 

それでは、渾身の演説をご覧ください!

[great dictator speech charlie chaplin](日本語字幕付きはこちら)youtubeサイトへ

▲[Charlie Chaplin – Final Speech from The Great Dictator] オリジナル 
▲ダンスで表現された [Charlie Chaplin – Final Speech from The Great Dictator]

参考にしたサイト様ありがとうございました
チャールズ・チャップリン – Wikipedia
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